「創業融資を自分で申し込む」は正しい
コンサルタントに支援を依頼せず、創業融資を自分で申し込みたいと思っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
まず、創業融資を自分で申し込むことには、次のデメリットがあります。
- オフィス契約や設立等、その他の作業に追われて創業計画書の作成等がなかなか進捗しない
- 中小企業経営力強化資金を利用することができないため、1000万円を超える創業融資獲得が困難となる
しかしながら、換言すれば、創業までに充分な時間がある場合や、借入希望額が数百万円である場合には、創業融資を自分で申し込むことに何ら問題はないということです。
一方で、創業融資を自分で申し込むことには、次のメリットがあります。
- 高額の報酬が不要
- 税務顧問契約が不要
- 自分で作った創業計画書等は、創業後の経営指標となる
高額の報酬が不要
創業融資の支援をコンサルタントに依頼した場合、
概ね資金調達額の3〜5%の成功報酬
がかかります。
また、コンサルタントによっては、この他、依頼の段階で、
概ね3〜5万円の着手金
が必要となります。
税務顧問契約が不要
税理士であるコンサルタントが、創業融資支援報酬0円を謳っている場合がありますが、これは、その後の税務顧問契約が前提となっています。
税務顧問契約に係る報酬は、年間数十万円となることが一般的です。
法人の場合であれば、税理士は事実上必須ですが、個人事業主の場合であれば、会計ソフトの利用等により、税理士なしで自身で確定申告を行うことも充分可能です。
自分で作った創業計画書等は、創業後の経営指標となる
創業融資は、スタートであって、ゴールではありません。
創業融資を受けた後は、得た資金を元に、会社を成長させていかなければなりません。
コンサルタントに作成してもらった創業計画書等は、「創業融資を受けやすくする」という観点から脚色が加えられていることが少なくありませんが、自身で作成した創業計画書等は、会社の重要な経営指標となります。
創業融資を自分で申し込むためのノウハウ
とはいえ、多くの方にとって、創業融資は初めての経験であり、充分なノウハウがないことが通常です。
本記事では、創業融資を自分で申し込みたいと考える全ての方が、実際に申し込みを行い、創業融資を受けるまでのノウハウをお伝えします。
なお、日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合の流れの全体像については、「日本政策金融公庫から創業融資を受けるまでの流れ」をご参照ください。
1. 創業に必要な資金を洗い出す
創業融資では、創業資金から自己資金を控除した金額が借入希望額となります。
したがって、創業融資を受けるには、まず創業後、何にいくらの資金が必要となるかを確定させることが必要です。
それでも不測の支出は必ず出てきますが、この段階で想定し得る全ての資金を可能な限り漏れなく洗い出しましょう。
なお、創業融資で借りることができるのは、設備資金と3ヶ月分の運転資金が目安となりますので、ご注意ください。
2. 自己資金を集める
「事業のために使う資金のうち、返済の必要のないもの」を、自己資金といいます。
したがって、創業に向けてコツコツと貯めてきた資金のほか、退職金や親から贈与を受けた資金等も自己資金となります。
統計上、創業融資の実行額は、毎年自己資金の2〜3倍で推移していますので、なるべく多くの自己資金を集めましょう。
なお、法人として創業する場合には、自己資金として主張する金額は、資本金としておくことが原則ですので、会社設立の際にはご注意ください。
自己資金の詳細については、「日本政策金融公庫の創業融資における自己資金とは」及び「日本政策金融公庫の創業融資と自己資金額」並びに「自己資金なしの状況から創業融資を受けるには」をご参照ください。
3. 会社を設立する
個人事業主として創業する場合には不要ですが、法人として創業する場合には会社の設立が必要です。
会社設立については、司法書士に依頼することが一般的ですが、費用削減のため自身で行うことも可能です。
会社設立を自身で行う場合には、「会社設立の流れと創業融資審査上の注意点」をご参照ください。
なお、会社設立後は、法人設立届出書を会社設立日から2月以内に、青色申告の承認申請書を会社設立から3月以内に、給与支払事務所等の開設届出書を最初の給与支給日までに、それぞれ税務署に提出(法人設立届出書については、都道府県税事務所及び市区町村役所にも提出。期限は各地方自治体により異なる)する必要がありますので、ご注意ください。
4. 申し込みをする支店を選ぶ
まず、日本政策金融公庫の事業資金相談ダイヤル(0120-154-505)に問い合わせを行い、どの支店に申し込みを行うべきかを確認します。
原則として、法人であれば本店所在地、個人事業主であれば開業地を管轄する支店が、創業融資申し込み先の支店となります。
また、日本政策金融公庫は預金業務を行っていないため、創業融資が可決となった場合には、振込先となる銀行口座が必要(法人の場合には、法人口座。個人事業主の場合には、既にお持ちのプライベート用口座でも可。)となります。
中小企業では、創業融資後も、後々銀行から融資を受けることとなる場合がほとんどですので、これを念頭に、この時点で、融資に熱心な銀行に口座を開設しておくとよいでしょう。
どこの銀行に口座を開設をするか未定の場合には、日本政策金融公庫から近隣の銀行を紹介してもらうことも可能ですが、時間があれば自身で預貸率の高い銀行を探すことがおすすめです。
なお、メガバンクは規模の小さい会社への融資に消極的ですので、地方銀行(地銀)または信用金庫(信金)を選ぶとなおよいでしょう。
取引銀行の選び方の詳細については、「取引銀行の選び方① 預貸率」及び「取引銀行の選び方② メガバンク・地銀・信金」をご参照ください。
5. 創業計画書を作成する
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合には、創業計画書の作成が必要となります。
下図が、日本政策金融公庫がホームページにて配布している創業計画書のフォーマットです。
創業計画書は、これ以外の形式で自作することも可能ですが、時折細かな修正はあるものの、本フォーマットは過去数十年に渡り日本政策金融公庫が創業融資において使用しているものですので、こちらをそのまま使用することをおすすめします。
なお、創業計画書の各項目の記載方法については、「日本政策金融公庫の創業計画書の書き方」をご参照ください。
6. 資金繰り表等を作成する
日本政策金融公庫の創業計画書フォーマットを使用する場合、数値計画は、「8 事業の見通し」欄しか記載する欄がありません。
このため、創業後に利益を稼得し、増加した事業資金から返済が可能であることを示す補強資料として、資金繰り表及び損益計画を作成することをおすすめします。
下図が、実際に、弊社が創業融資支援のご依頼をいただいた際に作成している資金繰り表及び損益計画です。
創業融資は、概ね5年以上の返済期間で返済を行うことが一般的ですので、こちらを参考に最低でも3年分程度の資金繰り表及び損益計画を作成するとよいでしょう。
下記が、それぞれの書類作成上の主な注意点です。
資金繰り表作成上の注意点
・計画初月の繰越現預金には、自己資金の額を記載しましょう。自己資金の額は、創業計画書「7 必要な資金と調達方法」の「自己資金」欄と同額となります。
・融資希望月の「借入金 長期借入金」欄に、借入希望金額を記載しましょう。借入希望金額は、創業計画書の「7 必要な資金と調達方法」の「日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入」欄と同額になります。
・日本政策金融公庫の創業融資は、元金均等返済(毎月同じ額の元本を返済する形式)です。したがって、毎月の返済額(利息は除く)は、
借入希望金額÷(借入希望年数−元金据置期間)
となります。
この金額を、元金据置期間経過以降の各月(元金据置期間の適用を受けない場合には、借入月以降の各月)の「借入金返済 長期借入金」欄に記載しましょう。
・支払利息は、元金据置期間の有無にかかわらず、借入月から発生します。
利率は、申し込みをする制度や会社の状況によって異なりますが、計画上は、年利2%と仮定して差し支えありません。
したがって、
借入希望額×2%÷12ヶ月
で計算した金額を、借入月以降の「支払利息」欄に記載します。
・各月の翌月繰越現預金がプラスとなるような計画としましょう。
・社会保険の額は、人件費の額によって変動しますが、計画上は、各月の「人件費 社会保険料」欄は、その月の「役員報酬」欄と「給与・賞与」欄との合計値に15%を乗じた金額として差し支えありません。
損益計画作成上の注意点
・創業当初の赤字は問題ありませんが、最終的には黒字となる計画としましょう。会社にもよりますが、1期目は赤字または損益とんとん、2期目は黒字、3期目は2期目より大きな黒字となるイメージで作成するとよいでしょう。
・「償却前利益」欄に記載されている金額が、会社の返済原資を表します。この欄の赤字が続くと、返済能力がないと判断されてしまいますので注意しましょう。
・「社会保険料」欄及び「支払利息」欄の金額は、資金繰り表作成上の注意点を参考に記載してください。
7. 借入申込書を作成する
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合には、借入申込書の作成が必要となります。
下図が、日本政策金融公庫がホームページにて配布している借入申込書のフォーマットの表面及び裏面です。
日本政策金融公庫では、両面刷りとなった借入申込書をもらうことができますが、自身で2枚印刷(白黒で可)したものを提出することも可能です。
特に記入に悩む箇所はありませんが、若干の注意点もありますので、「日本政策金融公庫の借入申込書の書き方」参考に、記載を行なってください。
8. その他の書類を準備する
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合には、
- 創業計画書
- 借入申込書
- 資金繰り表及び損益計画
のほか、
- 借入金の残高、毎月の返済額がわかる明細書
- 通帳
- 創業する事業を営むのに必要な許認可等を受けていることを証明するもの
- 設備資金の見積もり、請求書、契約書等
- 創業に際し既に支払った費用または設備の領収書
- 不動産賃貸借契約書
- 運転免許証のコピー
- 印鑑証明書
- 履歴事項全部証明書・定款
- 役員が経営している他の会社の確定申告書及び決算書
が、必要となります。
全ての書類を申し込み時に提出する必要はありませんが、面談時に提出を求められ、慌てずに済むよう、あらかじめ準備しておきましょう。
それぞれの書類の詳細については、「日本政策金融公庫の創業融資を受けるための必要書類とは」をご参照ください。
9. 書類を提出する
ここまでで準備した書類を、日本政策金融公庫に提出します。
書類は、郵送で提出することも可能ですが、面談日当日の予行として、直接支店に持参して提出することをおすすめします。
その場で面談日を指定されることもありますが、通常は後日、面談日について相談の電話がかかってきます。
なお、提出した書類のほか、追加で必要な書類については、この電話において案内がありますので、面談日までに準備を行い、持参しましょう。
10. 面談を受ける
書類の提出を行った支店において、面談が行われます。
面談では、基本的に提出した創業計画書や資金繰り表、損益計画等の内容についての質問がなされます。
面談は、会社にとってのアピールの場であると同時に、担当者にとっての情報収拾の場でもあります。
不必要なことを延々と話して貴重な面談時間を空費しないよう注意しましょう。
面談時の注意点については、「日本政策金融公庫の創業融資面談時の注意点」をご参照ください。
なお、決まりがあるわけではありませんが、面談には、スーツで臨むことがおすすめです。
11. 事業実態の調査を受ける
面談後、必要に応じて、日本政策金融公庫の担当者が、事業所(法人の場合には本店所在地、個人事業主の場合には開業地)に事業実態の確認に来ます。
事業を行う上での体裁が整っているかが、主な確認内容となります。
12. 金銭消費貸借契約書を返送する
創業融資審査が無事可決されると、日本政策金融公庫から、創業融資に係る金銭消費貸借契約書が送付されてきます。
この時点では、原則としてすでに融資実行は確定していますので、心配は不要です。
必要箇所に署名捺印を行い、返送しましょう。
金銭消費貸借契約書は、直接支店に持参する必要はありません。
なお、創業融資獲得に係る手続きはここで終了です。
13. 融資の実行
返送した金銭消費貸借契約書が日本政策金融公庫に到達した日の3営業日後に、借入申込書に記載した預金口座に融資金が振り込まれます。
以降、同じく借入申込書に記載した方法で、元金及び利息が毎月引き落とされていきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
文量の都合で割愛した部分もありますが、本記事や下記でご紹介しているノウハウを踏まえて準備を行えば、「自分で創業融資を受ける」ことは充分に可能です。
→創業融資制度の違い① 日本政策金融公庫の新創業融資制度と制度融資との違い
→別会社を設立して日本政策金融公庫から創業融資を受けることは可能か
→創業融資において運転資金と設備資金とではどちらが借りやすいのか
中小企業は、我が国の重要な経済基盤です。
創業融資が自分でも受けられるものとなることで、皆様にとって創業がより身近な選択肢となることを、心より祈っています。