銀行の融資審査の仕組み③ 債務者区分

「融資審査は格付で決まる」といわれることがあります。

しかしながら、これは、厳密には、2つの点において誤りです。

まず、1つめは、今日、各銀行は新たな融資審査の基準として、事業性評価に取り組んでいるという点です。

この事業性評価については、「融資審査の仕組み④ 事業性評価」で改めてご紹介します。

そして、2つめは、融資判断は、債務者区分によって決しているという点です。

本記事では、この債務者区分についてご紹介します。

債務者区分とは

金融検査マニュアルにおいて、債務者区分は、

債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することをいう

と定義されています。

また、債務者区分を行うにあたっては、

原則として、信用格付を行い、信用格付に基づき債務者区分を行(う)

こととされています。

なお、債務者区分を行うことを、「自己査定」といいます。

つまり、先ほど、融資審査は格付で決まるというのは「厳密には」誤りとしたのは、融資審査は債務者区分に基づき決することとなるものの、債務者区分は信用格付に基づいて行われるため、結局は、融資審査は格付で決まると表現しても「ほぼ」差し支えない状況にあるためです。

では、なぜ、債務者区分が融資審査の基準とされるのでしょうか。

債務者区分は銀行にとっての貸倒引当金計上基準となる

債務者区分が融資審査の基準とされるのは、各銀行は、金融庁の指導により、この債務者区分に応じてそれぞれの債権につき貸倒引当金を計上しなければならないためです。

金融検査マニュアルには、

貸倒引当金は、少なくとも債権(貸出金及び貸出金に準ずる債権)対象とし、発生の可能性が高い将来の損失額を合理的に見積り計上する。

(中略)

また、貸倒引当金の算定は、原則として債務者の信用リスクの程度等を勘案した信用格付に基づき自己査定を行い、自己査定結果に基づき償却・引当額の算定を行うなど、信用格付に基づく自己査定と償却・引当とを一貫性を持って連動して行うことが基本である。

と記載されています。

今日の金融検査は、事業性評価への取り組みを中心に実施されるようになりましたが、従来は、信用格付・債務者区分、そしてこれに基づく引当金の計上額が適正なものかを中心に実施されてきたのです。

引当金を計上すると、自己資本が減少します。

自己資本が減り、債務超過に陥れば、その銀行は預金の払い戻しが困難となり、経営破綻することとなります。

実際に、2003年11月に、栃木県の足利銀行が債務超過により特別危機管理銀行に指定され、経営破綻となり、国有化された例があります。

つまり、銀行にとって、引当金の計上が必要な債務者区分にある会社へ融資を行うことは、自身の首を絞めることと等しいのです。

これが、融資審査が債務者区分に基づき行われる理由です。

債務者区分と引当率及び融資姿勢

債務者区分は、信用格付を基礎とし、これに諸般の状況を考慮することで、債務者を正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先に区分することをいいます。

下記が、それぞれの債務者区分の定義とこれに基づく引当率及び融資姿勢です。

・正常先

正常先は、

業績が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。

と定義されています。

正常先に対する債権の貸倒引当率は0.2〜0.3%程度です。

正常先に区分された会社への融資は、積極的です。

・要注意先

要注意先は、

金利減免や棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題のある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。

と定義されています。

要注意先に対する債権の貸倒引当率は5%程度です。

要注意先に区分された会社への融資は、信用保証協会付であれば検討してもらえます。

事業性評価の普及により、状況は変化しつつありますが、基本的には、融資を受けられるのは、要注意先までと考えて差し支えありません。

・要管理先

要管理先は、

要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者をいう。

と定義されています。

また、要管理債権は、

3ヶ月以上延滞債権及び貸出条件緩和債権

と定義され、さらに、3ヶ月以上延滞債権は、

元本又は利息の支払が約定支払日の翌日から3月以上延滞している貸出金

貸出条件緩和債権は、

債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金

とそれぞれ定義されています。

要管理先に対する債権の貸倒引当率は15%程度です。

要管理先に格付けされた場合、担保や保証人がある場合を除き、融資を受けることは困難といえます。

・破綻懸念先

破綻懸念先は、

現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。

具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。

と定義されています。

破綻懸念先に対する債権の貸倒引当率は50〜70%程度です。

破綻懸念先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。

・実質破綻先

実質破綻先は、

法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状況にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。

具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。

と定義されています。

実質破綻先に対する債権の貸倒引当率は100%です。

実質破綻先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。

・破綻先

破綻先は、

法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。

と定義されています。

破綻先に対する債権の貸倒引当率は100%程度です。

破綻先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。