【雑感】「半沢直樹」にみる金融機関の性格及び体質

今更ながら、テレビドラマ「半沢直樹」第1話を観賞しました。

原作者の池井戸潤氏は、元銀行員であり、「半沢直樹」はエンターテインメントとして幾許かの誇張や脚色はあるものの、良くも悪くもティピカルな金融機関像が表現されています。

金融機関の性格や体質を学びたい方は、導入として、「半沢直樹」をご覧になってはいかがでしょうか。

 

「君たち、慶應の体育会だろ?俺も同じ。慶應の経済。」

 

半沢の同期である渡真利が、入行式で半沢とその友人である近藤に放った台詞です。

金融機関は、学閥、派閥の強い業種です。

一般に、信用金庫<地銀<メガバンクの順でこの傾向が強くなります。

 

「手作業でこれだけ正確にチタンを切削する技術は見たことがない。素晴らしい熟練工をお持ちですね。コンピュータには限度がある。そのポリシー、大切になさってください。バンカーとして、ここですぐに融資のお約束はできない決まりです。稟議が通るまでは。ですが、最善を尽くします。」

 

半沢が、マキノ精機の製造現場に出向き、製品と製品にかける社長のポリシーを評価し、同社への融資を稟議にかけることを決めたシーンで放った台詞です。

マキノ精機は、取引先の倒産により、メインバンクに融資の打ち切り及び貸し剥がしに遭いました。

このままでは支払手形が決済されず、マキノ精機は不渡りを出してしまいます。

手形の不渡りを出すと、銀行取引停止処分を受け、会社は事実上の倒産となります

 

この台詞に加えて、半沢は、融資検討の条件として、特許の強化を提示します。

まさに、今日、金融庁主導で推進されている事業性評価に基づく融資及びリレーションシップバンキングの一環としてのコンサルティング機能発揮の典型であり、理想型です。

なお、半沢が、

「ここですぐに融資のお約束はできない決まりです。稟議が通るまでは。」

としたのは、銀行の行員には、稟議が通るまで融資の可否を伝えてはならないという、融資予約の禁止が課されているためです。

 

マキノ精機は「潰れるのが時間の問題」であり、事業性等のマキノ精機の「先のこと」を「どうだっていい」とし、ノルマ達成にはマキノ精機への融資金額では「焼け石に水」とする副支店長の台詞を、半沢は「悪しき銀行の勝手な論理」と切り捨てます。

決算書という過去の数値に依拠する「日本型金融」と、事業性という将来の期待値に依拠する「事業性評価融資」とが鮮やかに対比されています。

 

「融資実行額100億円を達成すれば、我が大阪西支店は名誉ある最優良店舗の栄冠を獲得することは間違いない。そうなれば、関西で名実ともにトップ店舗になれます。ここで働く全行員の査定にも大きく影響するでしょう。そのためにも、何としてもあと5億の実行が必要です。」

 

金融機関では、3・6・9・12月といった決算期ごとに、各支店に預金額や融資残高等のノルマが課されています

ノルマの達成は、その支店の行員の査定はもとより、支店長の出世に非常に大きな影響を及ぼします。

支店長である浅野が融資獲得に必死になっているのは、このためです。

ただし、浅野が必死すぎる嫌いもあります。

浅野については、これまで東京中央銀行に見向きもしなかった東田社長との融資交渉をいとも簡単に取り付けた描写があったことから、浅野と東田社長とに不正融資等、何らかの癒着が存在する可能性もあります。

 

「いきなり裸で5億ですか。リスクが大きくないですか。」

 

西大阪支店から稟議書を受け取った本店調査役の川原の台詞です。

担保等の保全を取らずに行う融資を裸貸し、あるいは裸与信と呼びます。

浅野は、これまで取引のなかった西大阪スチールに、裸で5億もの融資を行う稟議を本店に上げたのです。

本部決裁案件となっていることから判るように、東京中央銀行において5億の融資は非常に高額の融資です。

本来であれば、担保の徴取等、保全の検討を要する案件でしょう。

融資実行額のノルマはもちろんですが、他にも何か裏があることを強く匂わせます。

 

「俺たち旧産業中央銀行の出世頭にして、歴代最速最年少にして常務にまで上り詰めた切れ者。その大和田常務と浅野さんは、太いパイプで繋がってる。まあ今回、中野渡頭取を筆頭とする旧東京第一出身の奴らを出し抜くことができて、大和田常務も、さぞ、ご満悦でしょうね。」

 

西大阪スチールへの融資が決まり、最優良店舗を獲得した後に、同期入社の渡真利が、半沢に放った台詞です。

 

半沢が入行した産業中央銀行は、生存を懸け、東京第一銀行と合併し、東京中央銀行となりました。

この合併は、東京第一銀行が合併法人、産業中央銀行が被合併法人です。

合併してできた銀行では、融資姿勢等が合併法人側のそれに準じたものとなるほか、行員の出世においても合併法人側が優位に立ちます

「合併したにも関わらず、旧産業中央と旧東京第一で足を引っ張り合うような、そういう古い派閥体質を壊さない限り、うちは本当の意味では良くはならない。」

とは、こうした銀行の体質を批判した近藤の台詞です。

 

「粉飾…」

 

西大阪スチールは、東京第一銀行から融資を引き出すため、粉飾により利益を大きく見せかけた試算表を提出していました。

このことを知った半沢の台詞です。

粉飾を行い融資を受けると、その程度が甚大なものである場合には、会社はもとより、代表者等についても刑事上、あるいは民事上の責任を問われるケースがあります。

また、粉飾は、その程度が軽微である場合にも、会社の定性評価を著しく毀損させ、以降の新規融資を困難にします。

決して、粉飾を行なってはなりません。

 

金融機関は、膨大な量の過去の粉飾に関するデータを保有しており、その傾向等に照らし、会社の粉飾を見抜きます。

しかしながら、西日本スチールへの融資を強引に進める支店長の元で半沢は充分な調査や稟議の時間が確保できず、粉飾を見破ることができませんでした。

 

「これまで全く取り付く島のなかった東田社長が、突然こうも簡単に資金需要の話を持ちかけてきたのは、何か理由があるからではないでしょうか。もう少し、調べさせてください。」

 

西大阪スチールを訪れ、東田社長との面談を終えた半沢が、支店長である浅野に対して放った台詞です。

銀行は、いきなり窓口に来て融資の申し込みをしてくる会社や、これまで融資営業に応じてくれなかったものの急に翻意した会社等を警戒します

これは、メインバンクが融資をしてくれない何らかの理由があるからではないかと考えるためです。

この半沢の台詞は、こうした銀行の思考からみれば、至極当然の提案でした。

 

しかしながら、浅野は、この台詞に対し、その必要はないと断じ、経験の浅い中西に、当日中に無担保で5億という西大阪スチールへの融資の稟議書(貸出事前協議書)の提出を命じたのでした。

 

「回収だよ、半沢。何としても東田を見つけだして、どんな手を使ってでも5億搾り取れ。」

 

支店長の浅野の画策により、西大阪スチールへの融資により生じた損失の責任を負わされ、窮地に陥った半沢に渡真利が放った台詞です。

原則、社長が連帯保証人となっていない融資については、会社が倒産すれば、社長に返済の義務はありませんが、粉飾により融資を受けた場合には、会社法第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)等に基づき、代表者に賠償義務が生ずる場合があります。

渡真利が言うように、「どんな手を使ってでも」とはいきませんので、半沢は、西大阪スチールが倒産した以上、賠償義務を負う東田の保有する隠し財産から5億を回収することとなります。

 

「国税局査察部の統括官の黒崎です。」「査察なの。よろしくね。」

 

東京中央銀行西大阪支店に国税局の査察が入った際に、査察部統括官である黒崎が放った台詞です。

国税局や税務署は、調査対象である会社や個人に関する情報収集のため、銀行等に対象に関する資料の開示を求める権限を有しています。

東田に隠し財産があると睨んだ国税局は、東京中央銀行に西大阪スチールの資料を査察に入ったのです。

査察が入り、資料開示を求められた銀行は、対応に時間を割かれ、通常業務に甚大な支障を来します。

 

加えて、黒崎は、金融庁から国税局への出向組です。

金融庁は、いわば銀行の生殺与奪権を有する機関であり、黒崎は、過去に大手銀行の大同銀行を強引に破綻に追い込んだ件のほとぼりを冷ますために国税局に出向してきています。

こうした経緯から銀行を目の敵にしている黒崎による査察は、5億円の回収に追われる東京中央銀行にとって泣きっ面に蜂であったことでしょう。